道具としてのExcel活用
業務改善/改革技法|まじめな人ほど失敗する理由
業務改善が失敗する理由(共通項があった)
コロナ禍で在宅勤務者が増えたことから、より少ない人数で、そして限られた時間で、一定の成果を上げることが強く求められるようになっています。
当社でも、業務改善の相談が前年の倍以上に増えています。
こうした相談の過程で、これまでの取り組みを伺ってきました。
当然ですが、どこも無策のままだったわけではありません。
さんざんできる限り手を尽くして業務改善を図ったものの、行き詰まったご様子です。
そして多くのケースで「まじめに取り組んだ結果、うまくいかない」という共通項が浮かび上がってきました。
まじめな人ほど、業務改善が苦手な理由
「まじめ」と形容されるのは、どういった人でしょうか?
世間一般のモノサシでは、多くの人が高い評価をする発想法・行動様式を持つ人(もしくはそうした人による行動)を指しています。
もっと具体的にいえば、几帳面で、手抜きをせず、何事も平等で、苦労をいとわない人ということになりましょうか。
人としてかくありたいと思わせる、典型的な良いイメージの人物像ですね。
しかし、そんな人ほど業務改善に取り組むとうまくいかないケースが多いようです。
なぜでしょうか?
他者の失敗に学ぶ
その理由をさぐるため、架空の定食屋チェーンを想定してみましょう。
メニューはたくさんあり、サイドメニューも含めて、50種類以上ある、よくある定食屋です。
今、コロナ禍で売上が激減し、毎月巨額の赤字を垂れ流すような現状に対して、強力な対策を講じる必要があります。
このとき、「まじめな人」だったら、どうするでしょうか・・・
- 利益=売上-費用なので、まず売上を上げるために広告宣伝を強化する。店のブランドを前面に出して、多くの人に知ってもらえるようなイメージ広告とする。
- 費用を下げるために、より安い材料に切替える。更に取引先に対しても、全食材に対して10%の値引きを要請する。
- 提供する料理の量を10%減らすことで、同じ売上でも原材料費が下がるようにする。
- 人件費を減らすため、3人以上が同時に入る時間帯は、1~2名の削減を行う。
- 配達サービスと契約し、テイクアウト需要を喚起する
…いかにもありそうな「業務改善」ですね?
「まじめな実行」結果
これを実行するとどうなるかといえば、
- 広告宣伝で受け取るイメージが、チェーン店の存在アピールにしかならず、行く動機につながらない
- 材料費を下げたことで味が落ち、食べる量も減ることで、再来店する人が減る
- もともと限られた人数でやりくりしていたので、ピーク時にオペレーションが追いつかず、客を待たせる等サービス低下につながる
- テイクアウト用の容器代の仕入コストが初期費用としてのしかかると共に、慣れないオペレーションで注文に間に合わないケースが多発、挙げ句信用を失う
…これでは更に利益が下がりそうです。
では、どうすべきか?
業務改善において、「常識的な対応」はむしろ逆効果です。
それなら非常識ならいいのかというとそうではなく、常識にとらわれない発想で、目的達成のためにできる手段の組合わせを探ることになります。つまり、改善というより、改革です。
先の例では、
- 人件費≒複雑な調理方法が必要なメニューを廃止し、できるだけ共通の調理プロセスのメニューに絞ることで、平均調理時間を減らす。
- 絞ったメニューの中から週替わりで、キャンペーンの告知広告を行う(期間限定割引など)。
- できれば、原材料も限定することで、1食材あたりの購買量を増やす。
このようにすれば、来店動機がわかりやすくなり、提供するメニューが限定されることでオペレーションが単純化され、調理時間も短縮されます。
そうすると、来店~退店までの時間を短くできるので、回転数も上げられます。
総来客数が増えていれば、多少値下げしてもカバーできますし、仕入コストも減らせるので、無理せずコストダウンと売上増進が実現できます。
従前のやり方を部分的に改善するのではなく、全く解釈を変えていますから、これは「業務改革」にあたります。
ちなみに、かつて吉野家が牛丼しか提供しなかったのは、その方が限られた時間で大量のお客さんをさばけた(注文後60秒以内に提供、すぐ食べ終わる…)からでした。
失敗しないための、解説
改めて、「まじめな人」がやりがちなパターンについて、何故逆効果かを、具体的に解説します。
1.全てのメニューを同列に扱う
メニュー数が多ければ、日に100食以上出るものもあれば、数食しか売れないものもあるでしょう。
これらを一律に扱うということは、全メニューに同じ広告宣伝費を使うのと同義です。
すなわち、日に100食売れる商品にも5食しか売れない商品にも、同じだけの広告宣伝費をかけているのと同じで、1食あたりで換算すると、売れない商品ほど高額な費用をかけていることになります。
元々100食売れている商品の売り上げが10%伸びれば10食分の売上増ですが、5食しか売れていない商品が2倍売れても10食分の売上増です。
どちらが簡単に実現できるでしょうか?
このように、限られた時間・予算を配分する場合、メリハリを付けた方が有効です。
2.コスト削減に根拠がない
「取引先に一律○%のコスト削減要請をする」のは良く聞く話ですが、10%に取り立てて根拠はなく、担当者の希望を他社に押しつけているに過ぎません。
こうなると、スペックが明確に決まっていない商材の場合、品質が落とされるのは当然です。国産牛だったものが米国産になり、やがて中国産になり…となると味が明らかに変わってきます。
一方、「特定商品を集中的に仕入れる」戦略をとると、ボリュームディスカウント効果が期待できるので、値下げ交渉も比較的容易になります。
3.サービスの質を低下させない
何の作戦もなく従業員数を減らせば、人件費は削減できますが、確実にサービスが低下します。
そうならないために、教科書通りではない運用が求められます。
メニューを減らせば飽きられる心配がありますが、週単位で入れ替えれば回避できます。
また、シンプルなオペレーションにすれば慣れてくるので、生産性は劇的に向上します。
その結果、客を待たせずにすぐ食事を提供できるようになります(待ち時間は、付加価値を産みません)。
こうして、単にコストを削減するだけで無く、サービスを寧ろ向上させるためには、教科書には載っていない組み合わせを思いつける人の方が有利です。
不常識を非まじめにやれ
このように、ルールが多い業務の場合、ルールを最小化すれば、驚くほど生産性が向上し、限られた人員で業務をこなせるようになります。
そのためには、仕事の種類を減らすのが近道です。
製造業なら製品数を絞る、サービス業も提供するサービス種類を絞る、社内の業務であれば作成する書類の種類や見るだけの報告書類を減らす…ということを意味します。
「まじめな発想」だと、「旅費と交通費は目的が別だから様式もちゃんと分ける」となりがちですが、経理処理する際はまとめて登録するので、同じ伝票でも全く問題ないのです。
ここでいう「まじめ」とは、物事を常識的に捉えて、正面から対応を図ろうとする人を指しており、本来肯定的な人です。しかし、業務改革を行おうとする場合、この肯定的要素が邪魔をしてしまいます。本田宗一郎(本田技研創業者)も、こうした弊害に対して「不常識を非まじめにやれ」と諫めています。
まじめで優秀な社内スタッフでは限界、と言う場合は、業務効率化の経験を有する第三者に相談してみると、社内の常識が通用しない分、思いがけない方針を示して貰える可能性が高くなります。大抵は、相談だけなら無料ですから、方針だけでも聞いてみてはどうでしょうか?
もちろん、当社でもExcelを使った業務が中心となりますが、豊富な事例を元にご相談に応じています。