道具としてのExcel活用
失敗に学ぶExcel活用:絶対合わない、売上のクロスチェック
一致しない相互チェック、果たして金額は正しいのか?
要約
- B社は小売店に販促機器をレンタルするサービスをしている、ベンチャー企業。
- 売上に応じて課金する関係上、取引先の売上を集計する必要がある。
- そこで、数字の間違いが無いように、2人が別々のやりかたで集計し、クロスチェックを行っているが、未だかつて金額が合致したことがない。
- 調べてみると、計算に使っているエクセルシートの式が、数値で書き潰されているのを発見。
対象業務の概要
B社は、小売店に対して販促用の機器を貸し出し、その効果で上がった売上に対して課金するというサブスクモデルで急成長しています。
小売店にとっては、新たな負担が生じないため、気軽に導入が図れるからです。
業務上の課題
しかし、肝心の「売上に応じた課金」については、間違いを恐れて2人が入力した内容が合致することを確認していましたが、ここ1年あまり数字が大きくずれていました。
これでは正確な課金ができないばかりか、B社の存続に関わる信用問題です。
当事者が考えた原因と対策(方針)
マネージャーが調べて見ると、売上集計作業用に作成したエクセルシートは、各担当者によって「改善」され、当初から大きく変わっており、元々入っていた式が部分的に数値に書き潰されているなど、計算ツールとしての機能が大きく損なわれていました。
そこで、ゼロベースで計算式を見直して、二度と壊れることの無いように作り直して欲しいとのご相談です。
真の原因と対応
売上の根拠の1つがPOSレジからのデータです。ところが、POSレジは、深夜営業をしている店舗の場合、翌朝までを当日分として計算する必要があるため、単純に何月何日という表現を鵜呑みにすることができません。他方のデータが0:00~23:59までを1日として区切っているため、この部分の誤差は必ず生じます。
つまり、こうしたケースでは、時計がずれている店舗を抽出できるようにした上で、日付の補正をする必要がありました(時刻は正確に入っています)。
次の合わない要因は、営業マンが個別の取引先に対して、「貴方だけ特別優遇します」的なルールを設定していることでした。このため、「売上比例でn%」が基本ルールなのに対して、特定顧客については「売上のm%」「最低○万円+n%」のようなパターンが数多くあったのです。
こうした例外について、場当たり的に「今月の数字」を電卓で計算して入力していたのが、式が壊れた直接の原因でした。
営業マンが思い思いのルールを「創造」している限り、システマティックな対応はできるはずもなく、本来はルールの整理が必要です。しかし、一旦交わした約束を変更するわけにも行かないので、本ケースでは、例外ルールを何パターンかに分類して自動処理できるようにしつつ、複雑なルールで自動化できない取引先にはフラグ(目印)を付けてそこだけ手計算するような運用としました。もちろん、式の部分は書き込みできないよう、保護をした上で、自由に記載できるエリアを専用に設けてあります。
このケースから学べること
私たちの業界では「システム化以前」と表現しますが、コンピュータシステムを使えば何でも自動化できるわけではなく、機械化するための標準ルールを定めておく必要があります。
営業マンが提案する特別ルールにしても、一定のルールの範囲で表現できるようにしておけば、自動化可能なのです。
また、一度「壊されないしくみ」を作って正確さを喧噪してしまえば、以後相互チェックというなの二重入力は不要となります。