道具としてのExcel活用

今さら聞けないDX(2) DX推進施策のパラドックス

前回はDXの定義や、一歩踏み込んだ視点について書きました。
今回はDX推進施策の1つ、IT導入補助金とその矛盾ついてのお話になります。

IT導入補助金とは?

DXを進めていくには多額のお金がかかります。
ITツールの導入費用、ITコンサルタント等を招聘する経費、IT人材の教育や採用にかかる人件費…。
その為、補助金や助成金を活用したいと考える企業が多いです。
当然そうしたニーズをくみ取り、助成金申請の支援を行っているサービスも多く存在します。
DX推進に関連する記事を読むと、必ず紹介されているのがIT導入補助金です。
このIT導入補助金とは、一体どういったものでしょうか?

公式サイトではこのように説明されています。

"IT導入補助金は、中小企業・小規模事業者等の労働生産性の向上を目的として、業務効率化やDX等に向けた ITツール(ソフトウェア、サービス等)の導入を支援する補助金"

対象となるITツール(ソフトウェア、サービス等)は、何でもよいわけではありません。
事前に事務局の審査を受け、HPに公開(登録)されているものに限られます。
例えば奉行シリーズや弥生の会計ソフトは、支援対象のソフトウェアです。
事務局の審査を通過したITツールであれば、それだけで安心・安全と言えそうです。

DXの定義のおさらい

前回のおさらいですが、総務省によるDXの定義では次のことが明示されています。

競争上の優位性を確立すること。

DXの最終的な目的は、競争力をつける事でした。
営利企業である以上、これは当たり前の話です。
競合他社との差別化・競争力の向上は、どの経営者も考えています。
ここでふと、ある矛盾に気づきませんか?
DX推進のために用意された、事務局の審査を通過したITツールです。
事務局が認めているITツールは、他社とお揃いです。
これは差別化の対極と言えます。

 

競合他社と差別化

ラーメン屋を見ると、「秘伝のスープ」「自家製手打ち麺」「特製チャーシュー」などをアピールしています。
どのお店でも同じスープ、同じ麺、同じチャーシューでは差別化出来ません。
近隣のラーメン屋と比べて何に拘り、どこに自信があるのかで勝負します。
ラーメン屋を経営していなくても、当然わかることだと思います。
ところがITという「よくわからないもの」になると、どうでしょう?
既存のソフトやサービスの導入経験があると分かるかと思いますが、自社の業務にそのまま合うことはありません。
オーダーメイドではないので当然です。
既存のサービスを使うためには、自社の業務をそのサービスに合わせる必要があります。

自社だけの強み

当社にご相談されたお客様とお話していると、皆さん同じことを言います。
「この業務は特殊で、とても難しいんです」
「この処理が複雑なので、苦労しているんです」
自社を強くするために、今日まで一生懸命育ててきた業務ですから、難しいのは当然です。
何度も試行錯誤を重ね、より良くなるようにした結果が今の複雑さです。
その業務を既存のサービスの型に嵌るようにすることは、競争上の優位性に繋がりますか?

IT導入補助金はとても魅力的な制度です。
奉行シリーズや弥生会計の購入などで申請するのは、とても有効だと思います。
しかし、今提供されているクラウドサービスなどは本当に自社を成長させてくれるものでしょうか?
今抱えている困難や問題点を、決まった型に嵌めてしまってよいのか、再考してみてはどうでしょう?